ネットの“ニセ医学”に要注意! 自衛手段を現役の医師に聞いてみた

本当は怖いネットの医学。
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こんにちは、ライターのひにしです。

突然ですが、もしみなさんが「ちょっと調子が悪いなー」と感じたり、病院でケガや病気の診断を受けたりしたらどうしますか? 恐らく多くの方が、できる限りの情報収集を試みるのではないでしょうか。

疑問や不安が生じたときの情報収集の手段として、とりあえず“ググってみる”“ネットで検索する”という行動は、現代人なら真っ先に行う選択の1つ。ところが、健康、さらには命に関わるような情報を検索する際、「その情報が本当に信頼できるものか」まではあまり気が回らないものですよね。

でも、もしも見つけた情報が、デマや誤った情報だったとしたら…?

 

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実際、検索で出てきたページを読んでみると、「これって本当に正しいわけ!?」と首を傾げたくなるような内容も多いと感じます。この辺りの記事でも、キュレーションメディアをはじめとした無責任な健康情報に対して、警鐘が鳴らされ始めています。

ぶっちゃけ、どうやって情報の信頼性を判断すればいいか迷うこともありますし、不安なときはついつい手軽な解決策に飛びつきたくなってしまうもの。どうすれば、ネットで正しい医療情報を手に入れられるのでしょうか?

というわけで、今回は「ネット上の医療情報」について、現役のお医者さんにお話を聞き、できる限り正しい医療情報を得るためにできることを探ってきました。

 

現役医師が総ツッコミ インターネット上の医療情報は信頼できる?

では、現状の検索結果で上位に出てくる、命に関わるような医療情報は、医師の目から見てどうなのか? 現役の医師に聞いてみました。

お話を伺ったのはこちらの先生。

 

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NATROM(なとろむ)先生(Twitter:@NATROM

内科勤務医として働くかたわら、ネット上にあふれる“根拠のない医療情報”や“ニセ医学”に警鐘を鳴らす貴重な存在。「病気で苦しむ患者が、誤った情報でさらなる不利益を被らないこと」を目指し、医療に関する正しい情報発信に努めている。
著書に『「ニセ医学」に騙されないために』がある。

NATROM先生は福岡県在住。今回は、音声チャットで取材させてもらいました!

 

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今回NATROM先生には、一見して一般の方による情報を装っているアフィリエイトサイトや「医師が運営」とうたいつつも、私が疑問を感じたサイトについて、正しい医療情報なのか客観的にツッコミを入れていただきたいです!

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わかりました。よろしくお願いします。

 

ケース1:「胃がん」の検索結果で上位に表示されるサイト

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こちらのサイトは「胃がんの原因はとにかくストレス」という説明で、最終的にカウンセリング予約に誘導しています。

「カウンセリングでストレス緩和をすれば胃がんに効果がある!」という、うたい文句なんですが…。確かに、ストレスは胃によくないとは聞きますよね。

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がんとストレスがまったくの無関係とは言いませんが、関連性はそこまで強くはありません。ストレスが胃がんの一因であったとしても、一度発症した胃がんはストレス解消したところで治りません。タバコが原因の肺がんが禁煙しても治らないのと同じです。

特に、後半部分の「胃腸の症状がカウンセリングで改善した」という体験談は、胃がんとは関係ありませんね。恐らく、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)のような、ざっくり言うと「検査で異常はないが、胃腸に何かしらの症状が出る」という病気のものでしょう。こちらはストレスと強い関連性があるので、カウンセリングで改善することは十分にあり得ます。

個人的にはカウンセリング料が高いのも気になるところ。1回35分で1万円以上もかかるなら、このお金で楽しいことをして過ごすほうが、よっぽどストレス解消になるのに…と思いますね。

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確かに! なるほどー、カウンセリングが胃腸の病気に効果があるとしても、胃がんとはまた別の話ですよね。

 

ケース2:「肺がん」検索上位のサイト

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このページは、とある医師オススメの「フコイダン」という成分を含んだサプリを飲むと、肺がんに効果がある、あるいは抗がん剤治療の副作用を軽減して、肺がんの標準治療(※)のリスクを減らす、という内容のサイト。私は「医師が薦めている」って時点で、信用できそうだなと思って…。

※ 科学的根拠に基づく観点で、現在利用できる最良の治療であると証明されたもの。これをもとに、がんの種類や進行状況、患者の体質などに応じて、医師が最適な治療方針を決定する。

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これはかなりひどいですね。結論から言うと、フコイダンが肺がんに効果がある、あるいは肺がんの標準治療のリスクを減らすという臨床的証拠はありません。

治療に効果があると言うなら、この医師はまず学会なり医学雑誌なりで発表すべきです。病気に効くと証明できれば、その治療法は保険適応となって、あらゆる病院で採用されます。そうでない時点で、明らかに“眉唾もの”の情報です。


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なるほど。やっぱり、“医師オススメ”といううたい文句もまったくもって信頼できないってことですね。これはつらい…。

 

ケース3:「ガン 克服」検索上位のサイト

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このサイトは「ケトン食」というものが“ガンを消す”という、かなり過激な内容です。

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現時点では、ケトン食ががんを消すという医学的な証拠はありません。

さらに問題なのが、「胃がんや肺がんなどのように、がんが塊をつくる『固形がん』には抗がん剤治療の効果は期待できない」「転移によるがんに抗がん剤や放射線療法は効かない」といった記述。標準治療を否定しているサイトは完全にアウトと断言できます。

このほかにも「医師に『抗がん剤治療を受けますか?』と尋ねると、100人中100人がNOと答えた」「がん患者の直接の死因の8割は、抗がん剤の副作用」なんていうのも、古典的なデマですね。

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わー、どこをとっても微妙な情報だらけのサイトということですね…。

そういえば、以前ニュースで、がん患者の芸能人が標準治療を拒否して、食べ物や気功とかで治そうとしたけど亡くなってしまった、というような話を何度か聞いたことがあります。もしかしたら、こういう情報が入口だったりするのかもしれませんね…。

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その可能性は十分にあり得ますね。このサイトは「がん 克服」の検索結果で上位に表示されるとのことですが、公的な信頼できるサイトでは、あまり「克服」という単語を使いません。情報を得たい患者さんが「克服」というキーワードで検索しているというのは、医師である自分にとって盲点でした。

今後、インターネット上の“ニセ医療情報”に対策を講じるとすれば、「この病気の患者さんはこういうキーワードで検索する傾向にある」といった分析が必要になりそうですね。それができる検索の専門家と医師が協力して、正しい情報が載っているサイトが検索上位に表示されるような取り組みができたら一番いいのでしょうね。

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確かに! そういった対策を少しずつでも実現させていけるのが理想的ですね。

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現状、こうしたネット上の医療情報に関する啓発は、私のような個人で活動している医師が主です。残念ながら、まだまだ医師会や医療団体レベルでしっかり取り組めているとは言えません。我々にとっても大きな課題だと思います。

私の所へいらっしゃる患者さんにも、40代~50代の比較的若い世代の方を中心に「こういう情報をネットで読んだんだけど、大丈夫なの?」と聞いてこられる方は年々増えています。もちろん、直接質問してくだされば、わかる限りの正しい情報をお伝えしているのですが…。

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お医者さんに直接相談するのって、なかなかハードルが高いんですよね…。自分も以前に手術で入院したとき、急に不安になっちゃって、ベッドでひたすら同じ手術を受けた人の体験記を読み漁ったことがあります。

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なるほど。すぐ近くに医師がいても、ネットの情報をチェックするんですね。本来は、そういった患者さんを病院側がケアしていれば、疑わしい情報を目にするリスクを減らせるはず。ですが、医師の数が足りないという現状もあり、まだまだ課題のままになっています…。

 

▼「正しい医療情報だけを検索結果に出す」ことはできないの?

そもそも、インターネットで検索したときに、本当に正しい情報だけが出てくれば、こんな悩みは持たなくて済むはず。というわけで、「Google先生はその辺りどうなっているの?」という疑問について、簡単に解説させてください。

 

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実は、私の本業はSEOのアドバイザーで、さまざまなサイトに検索順位の動きに関するマーケティングをする仕事です。つまり、検索エンジンの仕組みのプロ。Google先生大好き! 10時間踊ったり1万回も舌を回したりしているだけじゃなく、真面目な仕事もしているんですよ!

まず、「正しい医療情報だけ」を出すというのは、つまり「信頼性の高い政府などの公的機関や医大などのサイトしか検索結果に表示できない」ということ。一見、特に問題ないように思えますが、実際はとても不便な側面があります。

たとえば「二日酔い対策」と検索して、「○%の生理食塩水を、体重○キロの人には○cc点滴する」といった情報しか出てこなかったらどうでしょうか? めちゃくちゃ不便ですよね。早く二日酔いを治したい一心なのに、こんな専門的な対策しか出てこなかったら私はブチギレます。場合によっては、情報の信頼性に欠けても、「飲みすぎサラリーマンが教える二日酔いの治し方」みたいなページが読みたいと思うかもしれません。

とはいえ、「がん」をはじめとする深刻な病気の検索結果においても、信頼性に乏しい情報が出てしまうのは大きな問題です。もちろんGoogleも何もしていないわけではありません。実は、がんなどの命に関わるキーワードの検索結果は大きく変わってきています。

昔は「アガリクス」「フコイダン」「しいたけ茶」などの、いわゆる「がんに効能がある」とうたった健康食品のページばかりでしたが、現在はかなりまともになりました。その一因は、医療関係のキーワードで公的機関のサイトのみが使える「go.jp」ドメインのページが、上位表示されるようになったこと。やはり、命に関わるような情報に関しては、Googleもしっかり手を打ってきているのです。

また、現在Googleで「ジカ熱」と検索するとこんな検索結果に(10月27日時点)。

 

検索結果一覧の右側にデータが並んでいますよね。これは、Googleが一部の健康に関する検索キーワードについて、医師グループの協力を得たうえで「正しい医療情報」として表示しているもの。すでにアメリカやインド、ブラジルなどの検索結果では、病名などの1000以上のキーワードに対して導入されています。

今後ますます、検索結果に信頼性の高い情報が表示されるようになっていくのは間違いないと思います。とはいえ、病気への対処法まで教えてくれるわけではありません。

さらに、あやしいサイトの1つを潰したところで、病気のように何度も検索されるキーワードは、あの手この手で集客しようとする悪質な企業やアフィリエイターが後を絶ちません。いたちごっこが続くわけです。

そのため、この問題に検索エンジンだけで対策を取るのは現実的ではありません。以前よりはマシになってきた検索結果ですが、無責任な情報を発信する人がいる限り、情報を目にするユーザー自身が賢くならなければいけないのだと思います。

 

ネット上の医療情報が正しいかを判断するには?

このように、医療現場や検索システムの状況から考えて、現段階ではやはり私たち自身が情報の正しさを確かめる術を身に着け、自衛するしかなさそうです。

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これまでに出たようなネット上の情報に騙されないためにできることはあるのでしょうか?

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はい。まずは、そのサイトの責任の所在を確認しましょう。医師の名前が出ているページなら、厚生労働省の「医籍検索」というシステムが活用できますよ。

 

医療情報の信頼性を確める第1歩は「医籍検索」から

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厚生労働省が管理している、医籍検索こと「医師等資格確認検索システム」。もし監修に医師の氏名が載っていたら、ちゃんと資格を持っている人なのかを調べることが可能。

ちなみに、NATROM先生の本名でも医籍検索を行い、資格をお持ちであることを確認しています。勤務先の公式サイトも照らし合わせた結果、もちろん現役のお医者さんでした!

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へー、初めてこのサイトの存在を知りました…! いざというときに覚えておくと便利そうですね。…あ、テレビでよく見る女医さんの名前で調べたら「存在しません」って出ましたよ!?

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結婚で名字が変わったりペンネームだったりする医師はヒットしません。

それから、匿名で発信している私が言うのもなんですが、たとえ医師の資格が確認できても、その人が信用できるとは限りません。先ほどの例でもわかるように、医師のなかにもおかしなことを言う人がたまにいます。著書やメディア掲載実績などもチェックして、批判を浴びている人物でないかも調べておくと安心ですね。

また、「いろんな人が言っているから正しい情報」とも断言できません。間違った情報が拡散されるケースもある、むしろそういった情報のほうが拡散しやすい面すらあります。

たとえば、がん検診について正しく説明すると「さまざまな種類があり、効果のないものもある。とはいえ、効果のあるがん検診を受ければ100%安心というわけではない。偽陽性や過剰診断などのデメリットもある」というように、複雑で理解しがたいですよね。一方、「がん検診さえ受けていれば大丈夫」「がん検診には一切効果がないので、受けないほうがいい」といった誤った情報は単純でわかりやすいでしょう?

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確かに。わかりやすくて単純なものほど広まりやすいというのは、医療に限った話ではないですもんね…。

 

公的機関のサイトをフル活用しよう

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どんな病気でも、まずは公的機関のサイトで調べるのをオススメします。がんの情報であれば、国立がん研究センターによる「がん情報サービス」です。

 

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たとえば、「大腸がん」でサイト内検索をかけると、「大腸がん 基礎知識」「大腸がん手術後の排便・排尿障害のリハビリテーション」といったページがヒットします。患者さん向けの冊子も充実していますよ。

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このサイトの運営元は有名ですよね。JTが受動喫煙と肺がんの関係性に関してコメントしたときも、一つひとつ論拠を示しながらフルボッコにしていた記憶があります。

 

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健康食品やサプリメントに関しては、国立健康・栄養研究所による「『健康食品』の安全性・有効性情報」というサイトがオススメです。

たとえば、素材情報データベースの「ブロッコリー」の項目では、「抗がん作用があるなどといわれているが、ヒトでの有効性は十分な情報が見当たらない」といった情報が掲載されています。

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このサイトは初めて知りました。さっきの「フコイダン」を検索すると…おぉ! こんなにもはっきりと「がんによいという文献は見当たらない」とか書かれているんですね。これはとても有用!

しかも、健康食品として有名どころの「アガリクス」とかのほかに、「ブロッコリー」や「海藻」みたいな身近な食品まで詳しく載っててすごい! ちまたでよく「コレに効く!」といわれている成分も、しっかりと言及されているし、こんな便利なサイトがあったなんて…。

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ネットで検索したときに気になった食材や成分があったら、まずはこういったサイトで情報を確かめてみると、自衛手段になると思います。

 

まとめ:正しい医療情報はネットで見つけられないのか?

というわけで、ネット上で正しい医療情報を見極めることは、私たちでも可能なようです。重要なのは、信頼性の確認手段を身に着けて、情報を取捨選択し、精度を上げていくこと。そのためには、次の3つがポイントになります。

●正しい医療情報を確実に得たいなら、公的機関のサイトを使う

●情報の信頼性を確かめるには、「医籍検索」や「『健康食品』の安全性・有効性情報」をチェック

●気になる情報を見つけたら、かかりつけ医に聞いてみる

まずは公的機関のページをチェック。それでも不安や疑問が解消されないときは、迷わずお医者さんに相談だー!

 

最後に:医療情報を提供しているみなさんへ

NATROM先生のお話のなかで印象に残ったのは、人の生死に関わるような情報を出す側のモラル・心構えの大切さでした。「アフィリエイターやキュレーションメディアの金儲けがいけない」とか、そういう単純な話ではありません。

あなたが出しているその情報、自分の家族や大切な人に薦めることができますか?

もしもその人たちが命に関わる状況に陥ったり、病気で苦しんだりしているときに、胸を張ってその情報を伝えられますか?

そもそも、正しくない・誤った医療情報が世の中に出回らなければ、こういった問題は起きないはずです。

受け取る側が賢くなることが最も効果的な自衛手段なのは間違いありません。しかし、もしもこれを読んでいるなかに医療情報を発信する側の人がいるなら、自分の行いが人の命を左右するかもしれないということを、胸に留めてもらえたらと願ってやみません。